最近、AccuRadioも飽きてきたので(チャンネル内の曲の入れ替えがそんなに頻繁じゃないので、今のところのお気に入りのチャンネル内の曲は、大体聴き尽くしてしまった)、YouTubeで気になるアーティストのプレイリストを聞くようになったんですが、今日のアーティストは、Joe。『Stutter』のオニイサンですな。
しばらく聴いてたら、どういうわけかTrey Songzなるアーティストの『Can’t Be Friends』なる曲がリストに混じってて、よく聴くと耳慣れたコード進行。なんと、坂本龍一教授の『美貌の青空』、というか、『Babel』のサントラではありませんか。
どういう素性か調べてみると、これはちゃんとした(?)リスペクトで、つまりはネガティヴなパクリではない、と。でもって、なんとビルボードR&Bチャートで1位とってたという…。いやぁ、さすが教授。
『美貌の青空』の初出は『SMOOCHY』(’95)ですが、この頃って、やたらとヒップホップ経由の16スイングが流行ってましたね。ニュージャックをダウナー&ローファイにしたようなヤツ。この初出バージョンもその流れを組んだアレンジが施されてたんですが、これが一味違う。ベースがAマイナーペンタ一発の一小節リフ(これがカッコいい)を延々やってて、その上にコードが乗るんですが、そのコードが、Aマイナーキーから始まるものの、コーラスの最後のほうでキーがあっちこっちにコロコロ変わるんで、リフとウワモノが頻繁に干渉するんですね。
ごく普通のバンドサウンドを前提にするなら、カオスになるか、ベースがクビになるかでしょうが、このトラックは、ベースのピッチを曖昧にしたり、ミキシングが実に微妙な線を保ってたりと、とにかく、干渉するパートで、ベースを「気にならない程度のノイズ」に仕立てることで、破綻を回避しているように聴こえます。中盤の展開部では、「さすがにこのまま行っちゃまずい」と思ったのか、ベースはほとんど聴こえないorオフになってまして、ライブでは普通のベースラインで演ってます。
ベースがオスティナートで、それとは関係なく(キーすら飛び越えて)ウワモノが進行するっていう構造自体は、実験音楽やジャズ・フージョンなんかでは決して珍しくないんですけど、それを(一応)商業音楽の文脈で試みてしまうあたりが、やっぱり教授なんですよね。私も教授を通じていろんな手法を勉強させていただきました。ちょっと前に、「キュレーター」なる語が流行りましたが、そう考えると教授って、実験音楽の優れたキュレーターのような気がしてなりません。
教授ばっかりヨイショし過ぎのような気もしてきたんで、歌詞に目を転じますと、作詞はなんと売野雅勇。この人が手がけた他の曲にもいろいろ思い出があるんですが、この曲の歌詞はホント凄い。特に鳥肌が立ったのは、
君の 可憐な 喉笛から
溢れだした 虹の涯は
美貌の青空
の部分。「喉笛」から「青空」まで、バーっと一気に広がっていく、このスケール感は、まさに圧巻です。で、これって、
↑このジャケット連想してしまうんですよね。ね、近いでしょ。違うけど。
話を戻してTrey Songzバージョン。彼らは初出バージョンを全然参考にしてなくて、あくまでBabelバージョンから発想してったのは明らかですけど、面白いのはリズムがイーブンな点ですな。95年の時点でブラックミュージックっぽいのやろうとしたら、コテコテの16スイングだったのに、いざR&Bのアーティストにリスペクトされたら、すっかりイーブンになってしまっていたという、ちょっとした皮肉。まぁ、すでに32フィールなんてのも当たり前な世界ですから、16スイングなんて、90年代の遺物みたいなもんなんでしょうね。
宇多田ヒカルなんて人も、一時は全米進出してましたが、ビルボード1位からは遠い結果に終わってしまってました。彼女のデビュー作にして代表曲である『Automatic』なんて、もろ16スイングですから、当初は真っ黒な人かと思ってましたが、私の見るところ、それは全然違って、実は4オン・ザ・フロア系の曲のほうがイキイキしてていい。だから、ちょっとユーロ系のセンスのある人だと思うんですよね。メロの湿っぽさもアメリカ向きじゃないし。日本人好みだとも言える。あと、ちょっと久保田早紀とか渡辺真知子とか八神純子とか、あの辺の、80年前後の女性シンガーソングライターの湿っぽさがある気もします。誰もそんなこと言わないけど。で、全米進出時は、完全にR&Bのメインストリームの音作りだったんですよね。彼女の良さがすっかり削がれてたという…。
以上、「著名日本人ミュージシャンとブラックミュージックの間に時たま立ち現れる皮肉」つながりでした。そういえば、宇多田も教授の曲トラック化してたな…(しかも戦メリ)。